| ||||||||
岩手・宮城 被災地訪問レポート |
白鳥が飛来する自然豊かなイーハトーブの地、岩手 |
岩手県獣医師会会長の多田洋悦先生は、発災害直後より、救援活動に従事されてきました。
「被災動物支援隊いわて」の代表幹事としても、 継続的に被災者と被災動物の支援を継続されています。
岩手県では、津波被害の大きかった地域と、県庁所在地の盛岡市との距離が約100kmもあり、 間にそびえたつ北上山地の中でも最高峰(1,917m)の早池峰山を越えていかねばならない立地条件が 大きなハードルとなりました。
発災直後に盛岡に届いた大量の支援物資の中には消費期限があるものも含まれており、それらを どこにどれくらい配分するのか、どのような手段で届けるのかも課題の一つであったということです。
遠野で開業されている多田先生は、沿岸部と本部を結ぶ情報調整役として、重要な役割を果たすとともに、 支援物資を車に満載し、沿岸部と盛岡とを往復していらっしゃいました。
災害発生直後、沿岸部のとある大きな避難所には、ペットを同行された飼い主さんもいらっしゃったことから、 避難所での共生のお手伝いをしようと、避難所運営側に申し入れされたところ、
「今はペットのことどころではないので・・」
と一度は断られたそうです。
しかし時間が経つにつれペットに起因するトラブルが生じてしまい、避難所内の混乱を防ぐために あらためて要請を受け、支援に入られたと伺いました。
避難所には、多かれ少なかれ飼い主とともにペットが集まることが想定されます。
あわせて、ペットに関するトラブルも想定しなくてはいけません。
しかし、予め共生のルールを作っておくことでトラブルを未然に防げます。
それはペットを同行した被災者が「行き場がない」、「支援が受けられない」、「避難しないで家に残る」、 という事態を防ぐことにも繋がります。
避難所における、人と動物の共生ルールを作ることは、被災者を救うことにもつながるのです。
ペットとの共生ルールがあることで安心してはいけません。
飼い主の権利ばかりを主張するのではなく、避難所ではマナーを守り、 周りに配慮することも忘れないでください。
そこには、動物を苦手とする方だけでなく、アレルギー等で一緒にいられない方や、 また家族の一員であったペットを守り切れず、失ってしまった方もいらっしゃるのです。
宮城県では、地元のNPO法人として、動物介在活動に取り組まれ、仙台市動物管理センターとともに、 譲渡活動等にも尽力されているNPO法人エーキューブ代表の齋藤 文江 さんにお話を伺ってきました。
色々なお話を伺う中、発災直後の大混乱下の現場に、事前の連絡もなく見学の方々が来訪され、 保護動物の写真だけ撮って帰っていかれた、という話を聞き、残念に感じました。
大規模災害の被災地は、人身の安全と保護を最優先しなければならない状況下で、救援以外の目的で 新たに人が被災地に増えることが、被災地の負担や迷惑になる場合もあります。
救援活動を目的として被災地に入る際にも、現地に負担をかけないよう、食糧や水、ガソリンなどの燃料、 寝場所、そして自分自身の安全についても自己責任で準備しなければなりません。
現地を訪れ、その状況を発信することで、義援金が集まり、ボランティアや物資に支援につながるのは事実です。
しかし、被災地支援を考えるのであれば、現場に負担をかけないように配慮することもマナーだと考えます。
災害直後の飼い主さんたちはどんな様子だったのでしょうか? 続けて齋藤さんに伺いました。
避難所での混乱の中、同じ犬種を飼育している飼い主同士で、繋いでいた犬を取り違える、 ということが起こったそうです。
普段なら考えられないことが起こるほど、現場は混乱を極めていたとのこと。
中には、はぐれてしまったペットが保護され、千キロ以上離れた場所に移動していることがわかり、 とても驚いた、という飼い主もいらしたそうです。
震災直後のペット一時預かりを周知するチラシ(抜粋) |
「行政に保護された動物は殺処分される」という噂が飼い主の不安をあおり、 ペットの一時預かりが可能であったにも関わらず、所有権を放棄し、保護グループに譲渡してしまった 方のお話も伺いました。
あまりに混乱していたため、飼い犬を手放してしまい、 落ち着いて考えることができるようになってから、『取り返しがつかないことをしてしまった』、と 後悔する飼い主もいらっしゃったそうです。
そんな混乱の中、エーキューブさんではいろんな手段を講じて、正しい情報を発信し続けてくださいました。
情報が錯そうする被災地において、その真偽を確かめるかというのは非常に困難です。
しかし、パニックにならないこと、そして、落ち着いて複数の人に相談してみることが大切です。
自治体や獣医師会等、動物のことはどこに相談すればいいのか、あらかじめ情報や知識を得ておくことで、 このような事態も防げるでしょう。
アナイスでは、長年被災地で収集してきた事例や情報をまとめた、実例集を作成しています。
被災地の現状を把握しておくことで、いざというときに冷静に対処することにつながります。
アナイスは、これからも現場からの情報発信を続けてまいります。