アナイスでは、伊豆大島でのペットの同行避難に関する状況調査のため、同島を訪問いたしました。このレポートでは災害発生時の「情報」を中心に報告させていただきます。
2013年10月、大型の台風26号の豪雨により伊豆大島では大規模な土砂崩れが発生しました。その被害により行方不明になられた方々の捜索が懸命に続けられる中、さらに強い勢力を持った台風27号が発生したことから、同島ではご高齢の方や介護、支援が必要な方々の島外集団避難と、島内で被害が想定される地域の住民の島内避難が決定しました。
東京都福祉保健局は、島民の飼育動物の救援対応の一環として、大島町にケージやフードなどの飼育用品と応援のための人員を送りこみました。また、公益社団法人東京都獣医師会では東京都と協力し、島外に避難された飼い主が同行した動物の一時預かりを実施しました。
避難準備に追われる伊豆大島では、住民の間に「動物同行避難はできない」との情報が流れていました。
確かに島外への避難に関しては、台風が近づき、徐々に海が荒れ始める中、車いす等の使用が必要な高齢者・要支援者とその介添えの方、補助の為の町職員が一斉に移動しなければならず、動物の同行については慎重に検討が行われていたとのことでした。
しかし島内での避難に関しては、避難所室内での同居はできなかったものの、避難所敷地内に置いた車の中に動物を置くことは可能でしたが、先に流れた情報と、「同行避難」=「室内同居」との誤解(※1)から、「同行避難不可」との情報を払拭することができなかったようでした。
中には避難指示が出た自宅からペットを抱えて車で避難したものの、避難所には行けず、島内をさまよい、疲れ果てる飼い主さんもいらしたとのこと。
実際には東京都福祉保健局と島しょ保健所大島出張所の対応で、避難用ケージの貸し出しや同行避難のアドバイスが行われておりましたし、同島で開業されている大島ペットクリニックの獣医師を介し正しい情報が発信され、避難所への誘導も行われていたのですが、大混乱する島内でそれらの情報を漏れなく周知することは非常に困難でした。
その後、島外避難に際しての動物同行も可能となり、出発前の島内ではその準備が進められていましたが、同時期に流れたマスコミによる「ペット同行避難不可」のニュースが、インターネットによって更に拡散された、という状況が生じていたようでした。
一方では、公益社団法人東京都獣医師会がウェブサイトに上げた島外避難者のペット同行避難に関する情報は、ツイッターなどによって拡散され、島外避難者の同行動物の一時預かりにつながる、という効果もありました。
このような情報伝達の問題は大規模災害が発生した被災地でも同様に生じます。
住民が落ち着いて安全に避難することを最優先しなければならない状況下で、混乱を招かないように情報伝達の方法を慎重に選択することは当然です。
しかし必要な情報をタイムリーに伝達しなくては、誤った情報による判断や行動が、人や動物たちを危険な目に遭わせてしまう可能性もあります。
「ペットの同行ができないのであれば、避難指示に応じずペットと共に自宅に残る」という選択は、まさにその一例です。
緊急事態に自分がどう動くかを判断するためには、自分が得た情報がいつの時点の情報なのか、正しい情報なのかを確認をすることが必須です。
また、アナイスが提言している通り、平常時に必要な情報をできる限り得ておくこと、自身で避難の準備(避難先の確保)を整えておくことが、すみやかな避難につながる、ということを改めて痛感しました。
台風が過ぎ去り、伊豆大島に帰島される島外避難された方々の見送りの為、竹芝桟橋に赴いた折、待合室で小型犬の入ったキャリーバッグを持つ父子を見かけ、『どのような避難をされたのか』をお伺いするためにお声をおかけしました。
その方は、早い段階で2頭の犬を飛行機で調布飛行場に送り届け、実家に迎えに行ってもらい、台風が過ぎ去るまで預かってもらっていたとのこと。
「状況が落ち着いたので迎えに来たのですよ」とおっしゃっていました。
また、早々に島外に避難し、飼い主一家は都内ホテルに滞在し、ペットはホテル近くのペットショップに預けていた、という飼い主さんもいらっしゃいました。
しかし中には、ペットをペットホテルに預けようとして、ワクチン接種やノミダニ予防をしていなかったために預けられなかった、というケースも生じていたそうです。
災害時の避難をすみやかに行うためには、平常時のペットの健康管理や疾病予防と共に、家族構成や事情に応じた対策を早めに実行に移す判断力も欠かせないといえるでしょう。
島内のペットたちは緊迫した状況を察知していたのか、帰宅後にも興奮状態が続いたり、車内での避難生活に疲れ果て、グッタリと脱力してしまったペットもいたそうです。避難時にはペットの様子を注意深く見守り、異常を感じたら早めに受診いただくよう提案いたします。
大規模地震と同様に、雨による被害は深刻です。
しかし雨による被害は突然に発生する地震と異なり、自宅の立地条件を把握し、天気予報や台風の進路、雨量に関する情報をこまめに入手することで、人的被害を回避する可能性が上がります。
例年、雨による被害が生じている地域にお住まいの方は、予め避難の方法を検討し、ペットの避難先を確保しておくことで、いざというときに慌てず避難することが可能になります。
今回の調査では、大規模災害が発生し捜索活動が続く中、次の台風に備えて避難準備を進めなければならなかった現場が、いかに緊迫し混乱しているかを痛感いたしました。
また、災害時の情報管理の重要性と難しさも同時に再認識いたしました。
携帯電話が進化し、テレビやパソコンが手元になくてもマスメディアやインターネット上の情報が入手できるようになった一方で、真偽に関わらず様々な情報が大量に得られるようになったのも事実です。
であれば、その情報を受け取る側が、冷静に情報の取捨選択をすることも大切だと言えるでしょう。
伊豆大島の被害の報道が続く中、11月初旬にフィリピンを襲った台風30号の被害の報道が開始された途端、伊豆大島への注目が一気に国外へと向けられてしまいました。
災害が続けて発生した時に感じることは、新たな災害が発生する度に、救援活動継続中の被災地の情報が激減し、新しいニュースを得るために報道側が移動していくことです。
被災地を見守る側も、現状を冷静に把握し支援を考えていくことが大切だと考えております。
伊豆大島では今もなお行方不明者の捜索が続いています。
この台風により被害に遭われたみなさまにお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方々のご冥福を心からお祈りいたします。
平井 潤子
(※1)同行避難とは
災害などの緊急事態時に、飼い主(人)の安全を確保しつつ、飼育動物を同行し、すみやかに安全な場所まで避難することであり、避難所内での同居を示すことばではありません。
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